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2004年から2009年まで更新していたブログ「今週のすぎやん」の内容を抜粋・修正し、ブログには書ききれなかった作者の思いや後日談なども新たに書き下ろしたエッセイ。

ミミズの思い出。

石切さん 近況報告
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クセだらけの代物。

私の親がまだ存命だった頃、石切劔箭神社(石切さん)に、年に2~3度、お詣りに行ってました。

近鉄奈良線の石切駅を下車し、長い坂道を下って、石切さんに向かったものです。
今は、近鉄けいはんな線の新石切駅から歩くルートもあるのですが、当時はなかったのです。

参道沿いには、漢方薬店が複数あり、母はよく利用していました。
購入していたのが、乾燥ミミズ。

乾燥ミミズの煮出し汁には、抜群の解熱効果があったのです。
我が家にはかつて、たくさんの乾燥ミミズの在庫がありました。

母は、私が風邪を引いて発熱するたび、小さなヤカンに水と乾燥ミミズを入れ、煮出し汁を作るのですが、これがもう、クセだらけの代物。

まず、とにかく、くさい。煮出している時から、くさい。
独特のニオイで、吐き気がするくらいです。

そして、まずい。
独特の風味で、子どもだった私にとっては、苦行以外の何物でもなかったです。

ジュースに混ぜれば、独特のニオイや味が、ほんの少し緩和されます。
でも母は、そのまま飲む方が早く効くと言い張り、とにかく飲め、早く飲めと、きゃんきゃん怒ります。
仕方がないので、鼻をつまんで、目をつぶって、一気飲みしていたものです。

ちなみに、母のきょうだいたちも、「乾燥ミミズの煮出し汁」のお世話になっていたらしく、「ああ、ミミズなあ。あれは効くもんな」と、こともなげに言われ、びっくりしたことがあります。

もう誰とも共有できない。

今年のゴールデンウィーク突入直前、家族で日帰り旅行に行ったのですが、目的地のひとつが石切さん。ダンナのお母さんのリクエストです。

母が亡くなって以降、石切さんへのお詣りは初めて。約30年ぶりです。
当時同様、参道を下って、神社に向かいました。

神社の佇まいは変わりませんし、たくさんの方がお百度参りをする様子にも懐かしさを感じましたが、境内にきれいなトイレが完備されるなど、変化もありました。

参道も、新しい建物やお店があり、占いのお店が激増していたけれど、シャッターを閉めているお店も多く、不自然な空き地も点在。
平日の午前中だったこともあるのですが、ちょっと寂しかったです。

でも何より驚いたのが、参道にあった漢方薬のお店が、ほとんどなくなっていたこと。

石切さんのすぐ近所にあった、大きな漢方薬店も消滅し、全く雰囲気の違う建物に建て替えられていました。
入店に戸惑うほどの、やや不気味な佇まいの漢方薬店も、なくなってました。

乾燥ミミズから遠ざかって、もう数十年。
「乾燥ミミズの煮出し汁」を知っている親戚たちも、みな亡くなりました。
ダンナも、80代のダンナの両親も、乾燥ミミズについては、全く知らないとのこと。

そして、数十年前に母が乾燥ミミズを購入していたお店も、なくなった。

残っているのは、私の体験と記憶だけ。
もう、誰とも、思い出を共有できない。

ダンナのお母さんが、参道でうれしそうにお菓子を買っている姿を見ながら、「ああ、確かに、年月は流れたんだ」と、しみじみ感じたひとときでした。

ちなみに今は、錠剤や散剤で販売されています。

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